「働き」とは、「働く存在(人間か機械)を介して、生産対象に対して各種生産方法により価値提供を提供すること」と再定義し、下図のように対象と方法をマトリックスモデル化し、価値生産を分解し検証します。なお、「情報・データ」のデータに対する働きを右側「情報処理:IPODモデル」として切り出して説明します。

3×3生産モデル(左)と情報・データ(カネ)の移動・変形・変化の抜粋例(右)

図 の左側「3×3生産モデル」は、働きを「生産対象(何を)」は「ヒト」「モノ」「情報・データ(カネ)」の3つの対象に、さらに「生産方法(どう)」は「変化」「変形」「移動」の3つの方法に分類しています。つまり「何を・どう」生産するかを表すマトリックスです。また、実際の働きは組み合わせが多いが、必ずどこかに存在するというモデルです。結果、「左×上」方向に行けば行くほどAI・ロボット等での機械代替が難しいという傾向分析ができます。

横軸を左から見ると、生産対象の「ヒト」は、人間に対して「変化・変形・移動」の3つの生産方法で「働く」ことを意味します。それにより最終消費者である人間に直接的に価値を提供します。中央の「モノ」は人間以外の物理的存在に対して、当該モノを介して間接的に、人間に価値を提供します。右の「情報・データ」は物理的に存在しないもの、もしくは存在しても電気信号等で表現される極めて質量の僅少なものに対し、同様な間接的価値提供をします。

次に縦軸ですが、生産方法で下段の「移動」とは生産対象自体は変わらず、存在する場所が変わることを意味します。中段と上段は生産対象物自体を変えることで、変える方法と結果により便宜的に変形・変化と区分しています。中段の「変形」は組立・加工等により外形が変わること、上段の「変化」は融合・伝播等により、中身自体が変わり新しく生まれる等を意味します。[1]

図 15左図「生産対象×生産方法」の各マスに事例を示しています。左からヒトを例にとると、その変形である「ヒト×変化」の指導の働きは、詳しく後述しますが部下を指導して、動機づけをしたり(心の変化)、能力を高めたりします(技の変化)。なお、ある程度手法はあっても、相手の性格、状況、タイミング等に変化のさせ方により結果も変わり、マニュアル化が難しい仕事です。

それに対して「ヒト×変形」の理美容は髪の毛を切ったり、顔をきれいにしたりします。マニュアル等があり、その通りに行えば、個体別対応の微妙な難しさは別として結果はほぼ同じです。直接人間の体から髪の毛を切り取ったり、マッサージをしたり等ヒトに対する変形行為により、美・快適さという価値を提供します。ただし、提供価値に満足するかは「心×変形」の働きによります。

「ヒト×移動」は鉄道・航空のように人を安全に移動する生産です。前述の通りコロナ後は需要が戻らない可能性がありますが、その場合はテレワークによる移動削減効果が出ていることにつながります。なお、ヒトが対象で高速移動の場合は生命・身体に影響が大きいので、機械代替は慎重に行われます。

同様に、真ん中の「モノ」の「モノ×変化」で素材開発での働きは、違う原料を融合する等て新たな素材を作ることです。R&D等の試行錯誤で、こうすればこうなるというやり方がない世界での生産です。また「モノ×変形」は例示の建設や自動車組製造等のように生産方法が基本決まっています。つまり、他の対象物も含め、変化と変形を分けている意味は、マニュアル化対応や機械代替性の高低度合い表しています。また、「モノ×移動」はモノ自体の変化がなく、場所が変わる生産で、ヒトの移動と比較すると安全性や快適性の提供という意味で、移動環境にもよりますが機械代替しやすい生産です。

また、右の「情報・データ(カネ)[2]」では、第1章IPODで説明したIoT、API及びAIによりそれぞれ、移動のネットワーキング、変形のコンピューティング及び変化ディープラーニングの各事例の説明をその右隣にしています。後述のコマツ重機のように、IoTはリアルなモノの生データを入出力する移動の変革により、建設現場が裸化されます。また、APIは情報・データを四則演算等の演繹法で変形する、他人が作ったロジックを拝借して、自分のロジックに活用することです。AIは結果はあっているが中身はなぜこうなるかが分からない(昨今説明可能型AIが本課題解決を模索していますが)データによる帰納法での変化です。

なお、このように整理をすると右下「情報×移動」は物量のない存在自体は何も変えず、場所を変えるだけなので価値が低いように考えられますが、「情報を引き出す」移動となると全く意味が変わり、非常に高度な働きとなります。これは信頼構築や駆け引き等による「ヒト×変化」の働きの結果、情報が移動することを意味します。つまり、このようにIPOD活動のPはこれら3×3生産の組み合わせを意味し、後述しますがDはマニュアルで生産のノウハウやデータ等を意味します。このように分解していくと、DXの解が見えてきます。


[1] このモデルはマトリックスであることに意味があり、定義の厳密性より度合いによる分析の納得性を重視している点にご注意ください。

[2] 経営資源の3要素、いわゆる「ヒト・モノ・カネ」で、「カネ」の実態は貨幣価値という数値情報・データなので、モデルとしては「情報・データ」に含めることが合理的という整理です。

※上記は弊社代表の書籍「人事労務DX データによる働き方改革2.0」から抜粋・加工致しました。