情報処理の基礎用語として「I/O」というものがあります。=INPUTで入力、O=OUTPUTで出力、両方で「入出力」を意味します。そして、I:入力したものを、O:出力するためにP=PROCESS(処理=計算)が存在します。基本的に情報処理という働きは下図のように、このI→P→Oの組合せで「人間か機械」どちらかを介して行われます。よって、コンピュータ(機械)の働きである「コンピュータという存在を介し価値を提供する」の内容は「情報を入力し、計算処理をして、新しい価値を持つ情報を出力する」と言い換えることができます。このIPO活動が情報処理の働きです。

IPOモデル概念図

では、人間という実在を通した情報処理の働きを、単純化して、足し算の問題を解く場合を考えてみます。問題用紙に「2と4を足しなさい」と書いてあれば、まずその問題を読みます(I:入力)。次に、頭の中で足し算して(P:処理・計算)、最後に、回答用紙に答えの6を書きます(O:出力)。これもIPO活動です。

これをコンピュータで情報処理させると、以下のような流れになります。

I:入力 2と4をキーボードで入力
P:計算 人間が作成した「キーボードから入力された2つの数字aとbを加算して、その結果cをモニタに表示する」プログラムが実行
O:出力 6がモニタに表示

これを図解すると以下のようになります。入力だけは人間が行いますが、それ以外はプログラムが実行します。なお、本書ではこのようにIPO活動の一部又は全部を自動化する実体をIPOマシンとします。

IPOマシン図(1×1型情報流通)

上記の事例は大変単純なのですが、AIやIoT、APIもすべてこのIPOマシンが進化した中で、簡単にですが説明ができます。さらには、このIPO活動の「情報」を「ヒト」や「モノ」に変え、人間か機械のどちらが介することで、世の中のすべての「働き」を表すことができます。本書ではこれを「働きのモデル1:IPO」とします。詳細は第2章で後述しますが、本書でこの単純なモデルが繰り返し出てくる具体的意味を、この段階で以下に説明します。

①人間か機械が働いた結果はO:出力された内容で、いわゆる仕事の成果
②仕事の成果に問題があるのはI:入力かP:処理に問題がある
③②より成果の改善はI:入力かP:処理を改善する以外方法はない

いわゆる因果関係をIPO分解しただけの、当たり前の内容ですが、意外と筆者も含めて多くの方が理解し実行できていないです。分かりやすい例が「切り取り」問題がなくならない理由と、その構造です。

例えば他人の発言を切り取る人の傾向として、自分の考えにこだわりすぎて変えられない場合が多いです。つまり、主張したい結論であるO:出力が決まっているために、かつ主義の元であるP:処理方法を変えられないため、入力:Iを全部でなく一部切り取り入力し、一部でもそれは事実と主張して、Pを変えずとも自然と結論Oが出てくるようにする構造です。なお、切り取りの具体例は差し控えますが、高齢者にこの傾向が高い理由を、AIの学習・利用構造により後述します。

いずれにせよ、本書ではIPOモデルと後述のIPODモデルを「働き」自体を変革する考えとして活用し、以下API・IoT及びAIを同モデルで解説します。

データ化とIPOD

情報処理がどんどん複雑になり、大量かつ高速に行われるように出現してきたのが、複数台のコンピュータを接続するネットワークシステムです。前図のような単純なMS-DOSパソコンによる情報処理から、下図のように社内で大量のIPOマシンが接続され、大量の情報を流通させる情報処理になっていきました。ホストコンピュータ時代の汎用機と端末との接続や、クライアント・サーバー型の社内LANなどがありました。しかし、基本的には自己管理内というクローズな世界でIPOマシンの構築が行われていました。

このクローズな世界での発展を、情報処理の頭脳であるPの実在数で整理します。初期に1台のパソコンで処理していた場合、Pの数は1つで「1」通りの情報処理の世界。その次に汎用機やサーバー1つに複数(a個)の端末を接続するネットワーク型ではPの数は「1×a」通りになります。汎用機やサーバーの数が増えると、「a×a=n」通りです[1]

1×a型情報流通IPOマシン

これに対してAPIでは、ユーザーのIPOマシンのPが自らIPOマシンに対して仕様公開され様式(ルール)に合致する情報を送り、相手のPを借りて処理した結果を返してもらうことになります。

APIによるIPOD型n×nデータ流通

社内ネットワークもAPIも見た目には、IPOマシン同士で、同様の行為を行っています。しかし、APIと社内ネットワークの決定的な違いは、APIは社外のPがどんな処理・計算を行い、どんな結果Oを出力しているかが、外からわからない・関知しない点です。社内のネットワークシステム開発では、処理・計算するプログラムを開発することが、価値や資産となります。しかし、APIは、プログラム同士が結びつき、他者の頭脳を借りて、結果だけ返してもらうという割り切った考え方です。

つまり、自分は得意なP開発に特化して、それ以外は他者の力を借りることにより、得意分野に特化したPが、APIネットワークにより無数:nにつながり、今までになかった、オープンなn×n型情報創造が起きます。わかりやすい例は、グーグルマップを使ったタクシー配車や不動産物件検索等のさまざまなサービスです。自社のP開発は配車や物件検索などに専念して、グーグルマップのPを借りて地図のデータをI:取り込んで、自社PからO:出力されるデータと併せて、新たなサービス展開するということです。

なお、一般的なインターネットを利用したショッピングサイトでの買い物や、旅行サイトでの予約なども、表面的には自分のユーザーIPOマシンがWebサービスのIPOマシンと情報をやり取りしていて同じ働きに見えます。しかし、その場合は「ヒト対プログラム」でのヒトの操作によるやり取りであり、APIは「プログラム対プログラム」の決まったルールでの外部とのプログラム共有による、機械同士の直接やり取りです。前者が「a×n」型データ処理で、APIにより完全な「n×n」型データ流通になったイメージです。

そして図14のように、その結果としてAPI仕様公開し外部にプログラム共有するIPOマシンには、大量のI/Oデータが流通され保存されます。本書では、このマシンはデータを元に駆動する「データ駆動型」として、単なる情報処理のIPOマシンと区別し、データによる力の源泉を表すため、下のようにIPODマシンとます(本書ではD:データを意味します)。

IPODマシンの構造

さらにデータ:Dを重視し活用する、これからの「データ駆動の働き方」をIPOと区別して「働きのモデル2:IPOD」として本書で多用していきます。モデル2はIPODマシンのようにビッグデータを取り扱うかどうかは別として、上図のようにIPOの各活動に対してD:データが基盤能力となる、つまりDは働く能力を示します。第2章で人間の能力向上は、その源泉が「記憶:D」となる構造により詳しく説明します。ここでは、「O=I×P×D」という関係、つまり、「働いた結果=(人間が介在して)入力した内容×それに対する処理×それぞれの能力」という関係を意味することを理解してください。


[1] 本書ではnは無数を意味し、それに対しての有数という意味でaを利用します。

上記は弊社代表の書籍「人事労務DX データによる働き方改革2.0」から抜粋致しました。